[漫画感想]つりたくにこ作品集「フライト」読了

2010年10月13日


フライト つりたくにこ作品集

ゲゲ女記事で、何度か記事にさしてもらった女流漫画家つりたくにこさん。
その作品集のフライト読了しました。
他のサイトも見ながら、つらつらと感想書いてきます。

今まで書いた記事

いつの間にやら溜まってたなという印象です(A^^;
はるこちゃん再登場&つりたくにこ再評価新聞記事
はるこちゃんおつかれさま!&つりたくにこ新刊情報
河合はるこ=つりたくにこ脚色ぽいよ[「青林工藝舎」ブログより]
南明奈演じる河合はるこのモデルの少女漫画家が実在した!?

少女漫画家じゃなくて青年漫画家だね。

はざまくにこの名前で少女フレンドなどに少女漫画も描いていましたが、
このフライトに載っているのは、ほとんどガロ掲載作品です。

参考に、このページにガロのつりたくにこ特集のときのでっかい写真があります。
対して、こちらは少女漫画の作品らしい。
作風全然違う!

私もガロ系はそんなに読んだことないので、深くは語れないのですが、
実にガロっぽい。シュールで観念的・哲学的な作品ばかりです。
悪く言えば「ひとりよがり」ではあるのですが、何か感じるものはありました。

これが本性だとしたら、少女漫画を描くのはキツそうだなと思いました。
実際落とした作品もあったみたいだし。

フライトにはたくさんの作品が載っていますが、
やはり、タイトルにもなっている「フライト」がわかりやすくて、一番読みごたえはありました。
「フライト」は、集英社「ヤングジャンプ」創刊時に設けられた「青年漫画大賞」に「風木繭」のペンネームで応募されたものです。
結果は佳作入選。既に病床にあったようで、作画が乱れている箇所もあるとのことですが、力強い線で描かれています。

『海蛇と北斗七星』とかの絵本ぽい話とかも幻想的で好きだけどねー。

海蛇と北斗七星 1980年12月ガロ掲載
72年につりたが描き、夫の高橋と友人の藤野孝子にプレゼントした直筆絵本の収録作をマンガ作品としてリメイクしたもの。

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水木作品とのつながりが見える箇所

せっかくなので、このへんから検証してみましょう。
初期の「あがき」という作品にねずみ男らしきものがでてきました。
この作品、当時の「ガロ」掲載作品のキャラクターが総登場する楽屋落ち的なパロディとのこと。
なので他のキャラクターも他の作品の登場人物なんでしょうな。

『あがき』 1967年4月ガロ掲載
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ここでもふんだりけったりwww

あとがき年表より

1968(昭和43)年(21歳)
7月、多忙を極めていた水木しげるのアシスタントとして、調布の水木プロへ。「少年サンデー」に掲載中だった「河童の三平」背景などの作画を担当。仕事ぶりは真面目だったが、一カ月ほどで辞める。

アシ期間てほんとにちょっとだったんですね。
アシをしていた期間の直後の作品が描線が力強くなっているという記述があとがきにありました。
そう言われれば確かにそれまでのものはさっぱりとした線の作風だったので、
ちょっと雰囲気に重厚感が増したような気がします。

「災難」 1970年7月 ガロ掲載
前年までの作品と比較して明らかに違うのは、陰影をはっきりと描き込んだ描線の力強さだろう。わずかな間ではあったが、水木プロでのアシスタント体験が描線の変化に影響したのかもしれない。

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すがやみつるレビュー

他に読んだ人はいないかなと探してみたところ、
「ゲームセンターあらし」等で知られる、すがやみつるが読み応えのあるレビューを書いてます。
ちょいと辛口だけども。

読書:『フライト つりたくにこ作品集』:すがやみつるblog

それでも親しみを感じたのは、作品の素人っぽいところだったでしょうか。自分とあまり力量の変わらぬ新人が(と当時は思っていた)、雑誌に作品を発表しているのが、どこか親しみを感じさせ、「ぼくでもプロになれるのではないか」という勇気も与えてくれていたように思います。

ぼくは1967年夏に、初めて「COM」の編集部を訪れ、編集者に同人誌に描いたマンガを見てもらいましたが、ぼくの作品は、当時の「COM」や「ガロ」に投稿してくる若いマンガ家志望者の作品とちがって、ロボットやジェット機の出てくる「商業主義志向」の作品でした。そのためか、「若さがないね。若いんだから、もっと冒険しなけりゃ」と評されておしまいになりました。

こんなマンガ家志望者だったため、マンガや雑誌の状況も、自分が置かれた立場も、醒めた目で見つめ、計算高くマンガ家への道を歩んできたつもりです。大マンガ家にもなれなかったかわりに、大崩れすることもなく、なんとなく業界の片隅にへばりついて生き延びてこられたのも、このあたりに理由があるはずです。

そういう立ち位置から『フライト』という作品集をあらためて通読してみると、病気のことはともかく、このような絵と内容では、専業作家としてマンガの仕事をつづけていくのは大変だったろうなあ……と、しみじみ思います。

ここで、「ゲゲゲの女房」のはるこちゃんの場合を思い返してみると

深沢社長「まだ荒削りだけど光るものがある。」
 ↓
編集者の言うとおりに「売れる」漫画を書かないと採用してもらえない
 ↓
深沢社長
『下手だったけど、あんたにしか描けない何かがあってそこがおもしろかったよ。これはよく描けてるけどおもしろくはないな』
 ↓
結局漫画家になるのをあきらめ、田舎に帰って先生になる

なんていう流れじゃなかったでしたっけ。

今考えて直してみると、はるこちゃんの話は、
いつか必ず売れると信じて、自分の信じたものを書き続けていたしげーさんと、
それができずに(そこまでの器量がなくて)漫画界を去って行った漫画家たちとの
対比を描いていた部分もあったのかもしれないなと思います。
つりたさんは、はるこちゃんとは異なり、自分の描きたいものを貫き続けた方のように思えますね。

今回の件で、その頃の漫画の世界を垣間見たようで非常に興味深かったです。

それにしても、漫画って創作力だけじゃなく経営力(マーケティング力?)ってやつも相当必要なのかも・・・とゲゲ女を見てたときにも感じました。
まっそれは編集さんの仕事でもあるけども。

良レビュー

日々のんぽり:つりたくにこ「フライト つりたくにこ作品集」

『フライト』を買った! | 万物の無用性について

つりたくにこ「六の宮姫子の悲劇」 – こんなんみっけ

漫画

Posted by ponnao